処暑の候。
夏のぬくもりがまだ空気の底に残りながらも、しとしとと降る雨が庭を濡らし、葉先には小さな露がひらめきました。
その合間をすり抜ける風は、白露へと続く秋の入口を知らせてくれるかのよう。
夏と秋が重なり合う一日が、静かに始まります。

そして――楽しいコーヒーの時間のはじまりです。
今日は新しく二名の方が仲間に加わり、教室には瑞々しい空気が流れました。
最初に用意したのは、エチオピア・ゲシャ ナチュラル(浅煎り)と、ブラジル・ダテーラ(中深煎り)。
カッピングで香味を比べていただき、多数決をとろうとしましたが、結果は同じ数。
最後はじゃんけんで決まりました。選ばれたのは在来種のゲシャでした。
ここで少し、皆さまと言葉を交わしました。
「ゲシャとゲイシャ、同じ豆ですか?」
――いいえ、ルーツは同じエチオピアの地にありますが、歩んだ道のりは異なります。
1930年代にゲシャの地から持ち出された種がパナマで広まり、世界に名を轟かせたものがゲイシャ。
一方、エチオピアの大地に今も残る在来の系統がゲシャ。
同じ起源をもちながら、歴史とテロワールの違いが、微妙に異なる香味の世界を生み出しているのです。

選ばれたゲシャを用いて、いよいよ抽出。
初めての一杯は、それぞれの個性がそのまま表れました。
一人は余韻にやわらかな甘みを感じさせる抽出。まだ直したい点は多いけれど、その甘さを壊さずに伸ばしていきたいと思わせる仕上がりでした。
もう一人は、酸味が際立ち、少し荒々しい印象。それでも、その荒さの奥に可能性がたっぷりと隠れています。
少人数での継続型レッスンだからこそ、こうした個性を丁寧に見つめ、それぞれに合わせた歩みを共にできるのだと、改めて感じました。

二度目の抽出は、指摘した点を意識しながら挑戦していただきました。
すぐに改善できることもあれば、時間をかけて身につくこともあります。
だからこそ今日の学びを宿題として、一か月後の教室に託すのです。
秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども
風の音にぞ おどろかれぬる
――藤原敏行
秋はまだ目にはっきり見えなくても、風の音がその訪れを告げてくれる。
コーヒーも同じです。今日の一滴一滴は、まだ心許ないかもしれません。
けれど、その中には確かな兆しがあり、次に会うときにはきっと新しい表情を見せてくれるはず。
秋の風がさらに深まる頃、皆さまの抽出もまた違う音色を奏でていることでしょう。
季節とともに歩むように、一杯の物語はこれからも続いていきます。

