9月8日|北日本新聞「珈琲入門 その6」

富山駅前の空は、少しずつ群青に溶けてゆき、街の灯りが一つ、また一つとともりはじめていました。
この日の富山の日没は18時09分。
夏の名残と秋の気配が交わる夕暮れに、人々の影は長く伸び、空は静かに季節の色を映しています。

未明には月食も見られたそうです。
夜明け前の空に浮かぶ月は、刻一刻と姿を変えながら淡い光を落としていたといいます。
一日の始まりから終わりまで、空は絶えず物語を奏でていました。
昼の明るさから夕暮れの静けさへ、そして再び夜へ――
その大きな移ろいの中で、私たちは小さな一杯のコーヒーに心を寄せていたのです。

さて、楽しいコーヒーの時間のはじまりです。
この日のテーマは「メリタのアロマジック」。
これまで続けてきたいろいろなフィルターの検証も、今回でひと区切りとなります。
アロマジックは台形専用のフィルターで、円錐型のハリオV60にはそもそも合いません。
そこで今回は、同じ台形系のカリタを用いて検証を行いました。

(心の声:ここでメリタのドリッパーを使ってしまうと、検証の趣旨がブレるんですよね…。メリタの小さな一つ穴、あれがすべてを支配してしまう。お湯をどんなリズムで注いでも、結局は小さな出口のキャパシティで流れが決まってしまうんです。だから器の中でお湯が滞留してしまい、注ぎの工夫が味に映りにくい。要するに“注ぎを比べる実験”をしようとしても、穴の設計が先に色を塗ってしまうようなもの。

カリタは底が平らで三つ穴。流速が固定されすぎないから、紙ごとの違いや注ぎ方の個性がまだ解りやすい。「今日はペーパーを比べたい」というテーマには、カリタ方があってます。いや、もちろんメリタもいいのですが、“ペーパー検証”というより“穴の性格検証”になってしまう。それはそれで面白いけれど、今日はそうじゃないんです…!)

この日の課題豆は、二日前にも登場したエチオピア・ゲシャ カルマチ ナチュラル。
カッピングをしてみると、二日前よりも一段と香りが冴え、果実の声が澄んで聞こえるようでした。
焙煎日は同じ。それでも、わずかな時間の流れが豆に落ち着きを与え、まるで新しい表情を見せてくれます。

抽出では、いつも美しい一杯を淹れてくださる生徒さんが、思いがけず渋みの残る仕上がりに。
けれど二度目の挑戦では見事に修正し、香り高く澄んだコーヒーを仕上げてくださいました。
この教室の魅力は、皆さんが驚くほどの速さで成長し合うこと。
新しく加わった方でさえ、すぐに腕を伸ばしていく姿に毎回心を打たれます。

持参豆の時間には、富山市内のお店の豆のほか、東京・下北沢、京都、大阪と各地の名店の豆が集まりました。
いくつもの焙煎士の想いと出会いながら、「コーヒーを選ぶ力」そのものが育っていきます。

そして次回からは、新しいシリーズが始まります。
MicTセレクションから6種類の課題豆をご用意しました。
どの回も入賞豆ばかりで、ここでしか体験できない特別なラインナップ。
参加していただくだけで、大きな価値を感じていただけることでしょう。

2025年 課題豆

  • 10月:《入賞豆》ペルー ラヨス デル ソル ゲイシャ【浅煎】
     世界が認めた COE 受賞ゲイシャ種
  • 11月:《入賞豆》インドネシア ベンコーラン デュア ドライハル【中浅煎】
     珍しいドライハル製法の COE 入賞豆
  • 12月:《入賞豆》コロンビア ラ シベリア ゲイシャ【浅煎】
     ベスト・オブ・トリマ入賞ロット

2026年 課題豆

  • 1月:《入賞豆》ホンジュラス トレス ペニャス パカス【浅煎】
     COE 受賞のパカス種
  • 2月:《入賞豆》ホンジュラス ロス ピニャス ティピカ カルバハル【浅煎】
     世界が注目する唯一無二のティピカ
  • 3月:《入賞豆》コロンビア ファン・マルティン シドラ ナチュラル【浅煎】
     “ネクストゲイシャ”と称される希少品種

これらを味わいながら学べるのは、この教室ならではの贅沢です。
課題豆も持参豆も「92℃縛り」で抽出し、それぞれがどんな物語を見せてくれるのか――今から心待ちにしています。

――最後に少し補足を。
「アロマジック」とは、メリタが販売する台形専用のペーパーフィルターの名称です。
通常のペーパーよりも厚みがあり、繊維の密度や加工によってコーヒーオイルや微粉をしっかりとキャッチし、雑味を抑えるように設計されています。
一方で香りの成分は逃さず、すっきりとした後味とやわらかな口当たりをもたらすのが特長です。
今回はメリタのドリッパーは使わず、あえてカリタにセットすることで、ペーパーそのものの個性に光をあてた検証となりました。

こうして6回にわたるフィルター検証の旅が幕を下ろしました。
毎回、新しい発見と驚きに満ち、学びの深さと楽しさを分かち合えたことは、何よりの財産です。
ご一緒くださった皆さまに、心からの感謝を。
そして次のシリーズで、また新しい物語を紡いでいけることを楽しみにしています。

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