10月24日|1DAY集中プログラム

朝の光がまだ柔らかい店内に、
湯気とともに立ちのぼる香ばしい香り。
この日、1DAY集中プログラムの受講が始まりました。

カッピング(珈琲の風味を感じ取る)、ブリュー(抽出技術)、
バリスタ(エスプレッソの理解と技術)、ラテアート(表現の技術)。
4つのテーマを各90分ずつ、
一日で学び、体験し、積み重ねていくプログラムです。

開店前の静けさの中、
8カップの珈琲を前に真剣な眼差しを向ける彼女の姿がありました。
彼女の目標は──焙煎士になること。

数日前、ひとりのお客様から尋ねられました。
「この教室に、焙煎の講座はありませんか?」
MicTの講座には焙煎そのものを扱うクラスはありません。
けれど、その言葉の奥にある想いに耳を傾けました。

「自家焙煎店を開きたいんです」と彼女。
それなら、まず“味を見極める力”を学びましょう。
焙煎の技術は、ただ焼くためのものではなく、
美味しさを感じ取る感性と共に育つものだからです。

「小さな焙煎機を買って、たくさん焼いて、たくさん飲んでみてください。
そして、自分の舌で確かめてください。」
そんな言葉を交わしながら、彼女は集中プログラムへの参加を決めました。

講習の合間、彼女といろいろな話をしました。
どうしてお店を開きたいと思ったのか。
今どんな環境で珈琲とかかわっているのか。
そして、これからどんな未来を描いているのか。

気づけばこちらも、自分の歩んできた道を思い返していました。
お店を開き、焙煎をし、教室を開き、人と出会い、
支えられながら積み重ねてきたMicTの日々。
それらの小さな出来事が、今という形を作ってきたのだと思います。

プログラムを終えたあと、
彼女の未来の焙煎店で、お客様が微笑み、
香ばしい香りが満ちている光景がふと浮かびました。
いつかその日が来たときに、
この日の学びと香りを思い出してくれたら──
それほど嬉しいことはありません。

「人は何かを極めようとするとき、
その道の果てがどこにあるかを知らない。
けれども、その道を歩みつづけること自体が、すでに答えなのだ。」
―― 東山魁夷『風景との対話』より

神無月拾五日|富山アピタ東珈琲教室・アピタ富山珈琲教室

露が冷たくなり、空気が澄みわたるころ。
道端の草花がわずかに色づき、風に乗って菊の香りがほのかに漂います。
秋の深まりとともに、珈琲の香りもどこかしっとりと感じられる季節になりました。

富山アピタ東の生徒さんたちは、十月四日に開催されたイベントで、はじめてのカフェ出店に挑戦されました。
このお話は、実は前回の教室から続く小さな物語です。
あのときは「どんなメニューにしよう」「看板はどうする?」と、試行錯誤の真っ最中。
テーブルの上には紙コップとメニュー案が並び、みんなで味を確かめながら、笑いの絶えない準備時間でした。

そして迎えた本番。
「どうでした?」と尋ねると、「思ったよりお客さんが来なかったんです」と少し肩を落としてしょんぼりとしています。
資料をみると「ちゃんと売上はプラスなってますね。初回で上出来では?」と尋ねると笑顔に戻る瞬間。
「場所が悪かった」「もっとこうしたかった」と次々に出てくる言葉には、
すでに次への意欲がにじんでいます。

初めての出店という舞台は、きっと思うようにいかないことも多かったでしょう。
けれど、その悔しさや戸惑いも含めて、すべてが成長なのです。
「もっとこうしたい」という気持ちは、誰よりも強い証拠です。
次に並ぶカップは、きっと今日よりも少しおいしくなるはずです。

さて、今日も楽しいコーヒーの時間の始まりです。
この日の豆は、南青山で購入したケニアのウォシュド。
前回お試しで参加された方が正式に生徒さんとなり、心新たなスタート……のはずが、
お一人がなかなか現れません。

どうやら「100円ショップでどの雑貨を買うか迷っていたら時間になってしまった」とのこと。
教室中が笑いに包まれ、穏やかな空気が流れました。

いつものようにカッピングをして味を確かめ、抽出を重ねながら風味の特性を考えます。
一年以上通ってくださっている方が多く、質問が次々に飛び交って、なかなか進まないのもこのクラスの良いところ。
時間ぎりぎりまで真剣な話と笑い声が入り混じり、あっという間のひとときでした。

教室が終わるころ、「実は出店のときにちょっと喧嘩しちゃったんです」との打ち明け話。
「いい経験をしましたね」とお伝えすると、
少し迷ったような、反省したような、照れたように笑っていました。
うまくいくことも、そうでないことも。
どちらも次の一杯をやさしく豊かにしてくれる、大切な時間です。

日が暮れるのも早くなり、夕焼けの色を見送りながら次の教室へ。
アピタ富山店では、少し疲れを感じつつもまた新しい香りが広がります。

この日はお一人、お仕事の都合でお休み。
課題豆は、生徒さんの娘さんがフィリピンのスーパーで購入された豆でした。
深煎りでしっかりとした苦味、袋には「アラビカ100%」の文字。
けれどその香りには、どこかベトナムコーヒーを思わせるコーヒー。手ごわい雰囲気をかもしだしています。

さらに、この日もうひとつの主役は「鉄瓶」。
生徒さんが、お父様から受け継いだ鉄瓶を持参され、
「いつもこれで淹れてるんです」と誇らしげに話されました。
ケトルと鉄瓶、それぞれで同じ豆を淹れて飲み比べると、
「本当に違うね」と驚きと笑いが混ざります。
湯にとける鉄の成分が、風味の輪郭をシャープに変えるようでした。

こうして季節が移ろうように、珈琲の表情もまた変わっていきます。
その変化を共に感じ、味わい、笑い合える時間こそ、
教室のいちばんの醍醐味なのかもしれません。

神無月拾日|中級珈琲教室

露が冷たくなり、秋の深まりを感じる頃。
草の上に並ぶ小さな露の粒が、やわらかな光を返しています。
そのひとつひとつが、季節が確かに移ろっていることをそっと知らせてくれるようです。

澄んだ空気には静けさが混じり、耳を澄ますと、風の音さえもやさしく、どこか遠く感じられます。
そんな秋の入り口に立ちながら、今日も「楽しいコーヒーの時間」のはじまりです。


本日のテーマは「バランス」。
お一人欠席で、今回は経験も知識も豊かな生徒さんたちが集まりました。
そこで、“Coffee Brewing Recipe Building Flow” のテキストに挑戦していただきました。

このテキストは、抽出の流れを整理しながら、
理想とする風味へと少しずつ近づいていくための道しるべのようなもの。
ただし、少し難解で、これまでのクラスでは「むずかしい!」という声も多かった教材です。

けれど、今日の生徒さんたちならきっと使いこなせる。
そう思いながらゆっくりと説明し、それぞれが自分の言葉で記入を進めていきました。
少し迷いながらも、一文ごとに丁寧に書き込まれたノートには、
自分だけの理想を探す真剣なまなざしが映っていました。


持参された豆は、エチオピアとインドネシアのハニープロセス。
どちらも個性が強く、今回のテーマ「バランス」とはやや異なる印象。
そこで、個性を活かす抽出と、調和を整える抽出の違いについてお話ししました。

あわせて、比較のためにブラジルのパルプドナチュラルとウォッシュドをカッピング。
精製方法によって変わる風味のニュアンスを確かめながら、
「バランスとは何か」を、それぞれの感覚で考えていただきました。


1回目の抽出を終えて、
皆さんで味を確かめながら、それぞれの課題を共有。

エチオピアの豆は、ココナッツを思わせるやわらかな香りが印象的でしたが、
酸味が控えめで後味に渋みが残るとの感想が。
インドネシアの豆は、苦味の中にナッツのような香ばしさがあり、
抽出された生徒さん(沖縄ご出身)は「島豆腐みたいな味わいですね」と微笑まれました。

ここから、2回目の抽出では、1回目の課題をふまえて修正と再挑戦。
味の余韻や甘みの残り方を意識しながら、それぞれの“もう少し先”を目指します。

エチオピアの豆は、酸の輪郭がやわらぎ、余韻に穏やかな甘みが生まれました。
インドネシアの豆は、ボリューム感が増し、丸みのある味わいに変化。
どちらも一杯目とはまるで違う表情を見せてくれました。

“完璧なバランス”ではないけれど、
それぞれの個性が息づき、確かにおいしい一杯に仕上がった瞬間。
教室にふわりと立ちのぼる香りの中で、皆さんの表情もやわらかくほころびました。


次回のテーマは「甘味」。
香りと酸、そして苦味の間でそっと顔をのぞかせる“やさしい甘み”を探します。

コーヒーの世界には、ひとつの正解があるわけではなく、
その日の心や温度、手の動きによって味は少しずつ変わっていきます。
だからこそ、毎回の教室が新しい発見の連なりであり、
そこに立ち会うたびに、静かに胸が温かくなります。

露を抱いた朝の光が、やがて風に溶けていくように、
今日の学びもまた、ゆるやかに心の中へ沁みていきます。
ひとつの滴が次の季節の種となり、やがてまた新しい香りを咲かせる日まで――。
やさしい風のように、そっと日々を包む珈琲の時間でありますように。

中級珈琲教室のご案内

コーヒーをもっと深く、もっと自由に楽しむための中級クラスです。
毎回ひとつのテーマを設け、課題豆やご持参の豆を通して、味わいの奥行きや抽出の幅を学びます。
豆の選び方から一杯を仕上げるまでの流れを体験しながら、コーヒーの世界をより広く感じていただけます。

◆ テーマにあったコーヒーをご持参ください ◆
おいしいコーヒーの選び方・抽出のコツを、テーマに沿って学びます。

【講座の内容】
・課題豆を試飲し、風味や特徴を解説
・テーマに沿った抽出にチャレンジ
・ご持参いただいたコーヒー豆を抽出し、全員で味わいと風味の違いをチェック
・その日のテーマについて、抽出のポイントや工夫を学びます

一年をかけて12のテーマ(キレ、コク、浅煎り、深煎り、バランス、甘み、香り、酸味、口当たり、後口、精製方法に注目、品種に注目)に挑戦します。

講師:MicT 富川義隆
日時:第2金曜 9:30〜11:00(90分)
場所:ミクト講座スペース(高岡市姫野497-1)
受講料:9,000円(3回分)
※3回目以降は、受講料(3回分9,000円/1回3,500円)を再度お支払いください。

神無月 陸日― MicT 新スタッフ育成トレーニング

月白く冴ゆる日に、技と心を磨く。

十五夜の月が静かに昇るその日。
MicT高岡店では、朝九時から一人の新しいスタッフが参加する「新スタッフ育成プログラム」が行われました。
これは、お客様向けの「基礎トレーニング・1DAY集中プログラム」をもとにした社内研修であり、
試用期間を終えたスタッフが現場の抽出業務に立つ前に受ける、重要なステップです。

トレーニングに先立ち、あらかじめ各講座の予習資料をお渡しし、
基本的な理論や用語を理解してから臨めるよう準備を整えました。
MicTでは、受け身ではなく「考えながら学ぶ」姿勢を大切にしています。
疑問を持ち、自らの手で確かめる。
それが“学びを自分のものにする”ための最初の一歩です。


● 珈琲の味覚講座(カッピング/60分)

トレーニングのはじまりは、味覚を整える時間から。
カッピングシートを渡し、理解してきたか簡単な質問をして確認。
並べられた7種類のカップに注がれたコーヒーのアロマを嗅いでいきました。
珈琲は名称は思い込みを防ぎため伏せてあります。
お湯を注ぎ、カッピングの基本を説明しながら準備。
カッピングその一連の動作のなかで、フレーバー、アシディティー、マウスフィール、スイートネスといった各項目を感じ取り、
「どんな果実に近いのか」「どんな質感を持つのか」を言葉にしていく練習を重ねました。

スタッフはカップに向き合いながら、
「この酸味は林檎のよう」「これはジャスミンに似ている」と、
思考を声にしながら香味の世界を探ります。
MicTが重んじる“味覚の言語化”は、ただ飲むだけではなく、
一杯の個性を正確に理解し、お客様に伝えるための基礎。
その基礎を体で覚える時間となりました。

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神無月四日|初級珈琲教室

ミクトのすぐ近く、新湊の町では、十月一日に「新湊曳山まつり」が行われました。
放生津八幡宮の秋季例祭として知られるこのお祭りは、
昼は絢爛豪華な「花山」、夜は幻想的な「提灯山」と、
一日で二つの表情を見せてくれます。

十三基の曳山が連なる光景は、まるで時代絵巻のよう。
すぐそばを通り抜けると、軋む車輪の音や掛け声が胸に響き、
夕暮れには提灯の灯りが水面に映り、港町ならではの情景が広がります。
ミクトのあるこの町の日常のすぐ隣に、
こんなにも息づいた伝統があることを、改めて誇らしく感じます。

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長月廿日|ハンドドリップ体験

雨が降ったりやんだりの朝。
空を見上げると、つばめたちの姿が少しずつ減ってきました。
季節は「玄鳥去(つばめさる)」──
夏をともにした渡り鳥たちが、
静かに南の空へ帰っていく頃です。

羽音が遠ざかるたび、
どこか胸の奥にひとしずくの寂しさが落ちます。
けれどそのあとを追うように、
ひんやりとした風が頬をかすめ、
秋の気配をそっと運んできました。

本日の教室は、同級生の女性4人組。
「ご近所のお友だちですか?」と尋ねると、
「仲良しかどうかはわからないけれど、何かするときは4人で集まるんです」
と、楽しそうに笑って答えてくださいました。

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長月拾九日 プロバットP12 メンテナンスと馴らし焙煎

昨日、ドイツからの長い旅を終え、
ようやくこの場所にやってきたプロバットP12。
受注生産で作られたこの一台が、
ついに高岡は姫野の地に腰を落ち着けたのだと思うと、
秋の朝の光が胸に差し込むような、
しずかなあたたかさが広がります。

朝十時、昨日遅くまで設置をしてくださったお二人が再び訪れました。
全国を忙しく飛び回り、東京のご自宅には月に数日しか戻れないのだとか。
そんなお二人が、焙煎機の扱い方を一つひとつ丁寧に教えてくださいます。
ベアリングへの注油や各部の掃除、部品の外し方、
煙突やファンの手入れ、チャフの捨て方……
手を動かすたび、焙煎機と少しずつ呼吸が合っていくようでした。

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長月拾八日|焙煎機プロバットP12設置 

焙煎機が、ついにやってまいりました。
長き時の川をゆるゆると下り、
幾度もの春秋をめぐりて、ようやく辿り着いた岸辺。
この日を、どれほど待ち望んだことでしょう。

思えば七年前、まだ静かな頃に心ひそかに描いた焙煎所の夢。
時は移ろい、人もまた移ろう。
寄り添い、励まし、道を照らしてくれた人がいれば、
やがて遠くへ旅立っていった人もいました。
そのたびに、また新しい人との出会いがあり、
花が咲き、やがて散り、そして次の季節がやってくるように、
私たちも少しずつ前へと進んできました。

焙煎機が到着する日に、煙突がつかないかもしれない──
そんな一抹の不安も、どうにか回避。

そして迎えたこの日。
朝から煙突屋さんが焙煎機の設置に間に合わせる為、準備に取りかかり、その後
焙煎機の設置に備えて待機してくださいました。

そこへ届いた知らせは、思わぬハプニング。
「焙煎機が富山店に着いてしまいました」

一瞬ひやりとしたものの、すぐに手配が整い、
焙煎機は高岡店へ向けて再出発。
先にメンテナンスの方々が到着し、
少し遅れて輸送班と焙煎機も無事に到着しました。
店先は一気に活気づき、空気がきゅっと引き締まります。

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9月12日 中級珈琲教室

テーマ「深煎り」

朝からお店の前の道では、工事の人たちが汗をぬぐいながら作業をしていました。
片側通行になった道には車が並び、いつもは静かな街が少し賑やかに。
そこへ滝のような豪雨が降り出しても、工事の手は止まらず、
雨に打たれながら作業を続ける姿に、思わず「プロだなあ」と感心してしまいました。

そんな朝を抜けて、店内には深煎りの香ばしい香りが広がります。
さあ、楽しいコーヒーの時間のはじまりです。

今日のテーマは「深煎り」。
課題豆には、大阪・兵庫で店舗を展開する自家焙煎店のキリマンジャロをご用意しました。
今日はお休みの方もいて、生徒さんはお二人だけ。
少人数だからこそ、じっくり取り組める贅沢な時間です。
質問もしやすく、抽出の一杯ごとに感想を交わしながら、
二人ならではの濃いレッスンが進んでいきました。

今日は特別に「一番おいしい珈琲を淹れてくださった方にプレゼント」をご用意。
ミクトセレクションから、インドネシア・コピルワックワイルド。
とても貴重なお豆なので、12gだけの特別な贈り物です。

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9月5日 初級珈琲教室

処暑の候。

夏のぬくもりがまだ空気の底に残りながらも、しとしとと降る雨が庭を濡らし、葉先には小さな露がひらめきました。
その合間をすり抜ける風は、白露へと続く秋の入口を知らせてくれるかのよう。
夏と秋が重なり合う一日が、静かに始まります。

そして――楽しいコーヒーの時間のはじまりです。
今日は新しく二名の方が仲間に加わり、教室には瑞々しい空気が流れました。

最初に用意したのは、エチオピア・ゲシャ ナチュラル(浅煎り)と、ブラジル・ダテーラ(中深煎り)。
カッピングで香味を比べていただき、多数決をとろうとしましたが、結果は同じ数。
最後はじゃんけんで決まりました。選ばれたのは在来種のゲシャでした。

ここで少し、皆さまと言葉を交わしました。
「ゲシャとゲイシャ、同じ豆ですか?」
――いいえ、ルーツは同じエチオピアの地にありますが、歩んだ道のりは異なります。
1930年代にゲシャの地から持ち出された種がパナマで広まり、世界に名を轟かせたものがゲイシャ。
一方、エチオピアの大地に今も残る在来の系統がゲシャ。
同じ起源をもちながら、歴史とテロワールの違いが、微妙に異なる香味の世界を生み出しているのです。

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